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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)8484号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そでこ原告の異議に正当事由があるか否かを判断する。

1 <証拠>によれば、以下の事実を認めることができる。

原告は江戸川区中央一丁目一二五〇番一、宅地49.58平方メートル及び同番二、宅地138.84平方メートルを所有しているが、そのうち本件土地を被告に賃貸し、残りの土地の一部を兄の訴外小山喜久雄に賃貸し、同人はその地上に木造瓦葺二階建店舗兼居宅、床面積一階8.75坪、二階8.00坪を所有している。その残余が原告使用部分であつて、原告はその地上に木造瓦葺二階建店舗兼居宅、床面積一階10.50坪、二階10.50坪を所有し、ここで青果業を主とした食料品店を営むとともに、家族六人の居住の用にも供している。

原告の家族は原告(大正五年生れ)、その妻(昭和四年生れ)、長男(昭和二〇年生れ)、長男の妻(昭和二二年生れ)及び長男夫婦の子二人(昭和四九年生れと昭和五一年一〇月生れ)である。食料品店の営業に従事しているのは原告夫婦と長男夫婦である。

一階店舗は間口三間、奥行二間であつて、狭いために、青果物は建物の前や横の道路にも陳列している状態である。そのため閉店の際の商品の片付けに長時間を要する。一階には他に玄関、台所、便所、洗場及び三畳の居間兼食堂がある。二階には居間が三部屋あり、五畳間は長男夫婦とその子一人の寝室であつて、7.5畳間はテレビ等を置いて居間として使用し、六畳間は原告夫婦と孫一人の寝室として使用している。たんす、商品の煙草等もあるために居住部分も狭く不便である。

また、入荷した青果類等を収納する倉庫用地がないために、一か月の賃料六〇〇〇円で近くに車庫を賃借してそこに車を置き、商品は車に積み込んでおくようにしている。

原告の兄小山喜久雄は四人家族であつて(小山喜久雄は大正二年生れ、妻は大正七年生れ、長男は昭和一六年生れ、次男は昭和二一年生れ)前記建物に居住し、深川に車庫を借りて運送業を営んでいる。

原告は前記土地以外に習志野市に約五〇坪の土地を所有しており、地上に妻名義で二階建のアパート(一、二階とも約二八坪)を所有し、これを六世帯に賃貸している。他に不動産はない。

2 <証拠>によれば、以下の事実が認められる。

原告居住建物の南側は京葉道路に接しているが、この拡張計画(南側、北側ともに各四メートルずつ)があり、昭和五〇年一月、東京都江戸川都税事務所長から原告に対し、原告所有土地のうち京葉道路に接する一二五〇番一の土地が都市計画街路予定地に該当していることが判明したとして、昭和四九年度の固定資産税及び都市計画税を減額する旨の通知があつた。

原告が道路拡張工事を所管する建設省関東地方建設局に問合わせたところ、原告所有土地付近の拡張工事は、当初昭和五〇年から五四年までの計画に含まれていたが、それが延期され、昭和五五年からの計画に入つているとのことであつた。そして、原告所有土地付近では工事に着手されていないが、小松川橋は拡張工事が行われ、江東区の中川新橋はかけ換えと拡張の工事を行つている。江東区の錦糸町駅前から中川新橋までは拡張工事が終つている。

もつとも建設省関東地方建設局用地部用地第一課長は、被告代理人の申請による東京弁護士会長の照会に対し、東京都江戸川区中央一丁目一二五〇番地付近の国道の幅員改築事業実施時期は未定であると回答している。なお同時に事業が実施された場合における補償は、「建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準」(昭和三八年三月二〇日建設省訓令第五号)及び「土地評価事務要領」(昭和四一年一〇月二八日建設省発厚第五九号建設事務次官通達)等に基づき算定されるとの回答がされている。

3 <証拠>によれば、以下の事実が認められる。

被告は本件土地上に木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅作業所、床面積一階77.27平方メートル、二階54.53平方メートルの本件建物を所有し、本件土地を賃借して以来、ここで一貫して自動車板金塗装業を営んでいる。

本件建物の一階は工場として使用され、二階は居住の用に供されている。板金塗装業は被告、長男(現在二九歳)次男及び従業員一名によつて行われ、被告の妻も事務の手伝いをしている。長男は妻と子供二人があり、次男は昭和五二年一〇月に結婚予定である。被告夫婦、長男一家及び次男の生活はすべて右板金塗装業の収入に依存している。最近の売上高は一か月約一五〇万円、被告の得る純利益は経費並びに長男、次男、妻及び従業員の給与等を控除すると一か月約三〇万円程度である。

被告の工場はシンナー等を使用するため、東京都から設備資金の融資を受けて公害防止等の設備をした上で、昭和五一年三月江戸川区長から正式に工場認可を得た。

本件建物の二階には三部屋あり、被告夫婦と次男が住んでいるが次男は結婚後も夫婦で引続き本件建物に住む予定である。

被告は千葉市検見川町に昭和三九年に二筆の土地(161.98平方メートル及び33.05平方メートル)を買い、昭和四〇年にその地上に木造一部軽量鉄骨造スレート葺二階建工場兼居宅、床面積一階119.83平方メートル、二階23.14平方メートルの建物を建築した。しかし右土地は住居地域であつて、法律上自動車板金塗装の工場を設置することはできない。そして右建物の一階には被告の従業員松本秀秋の一家九人が居住しており、二階には被告の長男一家四人が居住している。

4 以上認定の事実に基づいて正当事由の有無を検討する。

原告居住の建物がその営業のためにも、また居住のためにも極めて狭あいであることは明らかであり、営業上様々の支障があり、日常生活にも不便が感じられるであろうことは推認するに難くない。

また、本件土地付近の京葉道路の拡張工事は、確定的な実施予定日は明らかではないとしても、数年先には着工の運びとなることは間違いのない事実のようである。そして、この工事が実施されて原告所有土地のうち四メートル幅の部分が道路用地として収用された場合には、原告居住建物の相当部分を撤去せざるを得なくなり、同所での原告の営業は不可能となるおそれもある。しかし、原告所有土地が収用される場合には、当然それに伴う損失の補償がされるはずである(前記建設省訓令等参照)。原告が失う土地、建物の価格及び逸失すべき営業利益に見合う補償がされることを看過してはならない。したがつて原告は京葉道路の拡張に伴つて特段の損害を受けるものではない。他へ移転する必要が生ずることがあり得るに過ぎない。京葉道路の拡張工事は正当事由の有無の判断に当たつて参酌すべきものではない。

一方被告及びその一家にとつて本件建物は営業の唯一の拠点であつて、本件建物における営業によつて被告一家の生計は支えられている。そして板金塗装業用の工場の移転が困難であること、仮に移転先を見出し得たとしてもその確保には莫大な資金を要することは容易に推測し得るところである。本件土地を明渡すことは被告一家及びその従業員にとって生活の崩壊に連なるであろう。

本件土地を明渡した場合に予想されるこのような被告の重大な損害と対比すると、前記のような原告の営業上の支障及び生活上の不便はなお受忍すべきものといわざるを得ない。

原告は正当事由を補完するものとして七〇〇万円あるいはこれを大幅に上回らない金額の立退料の支払を申出ている。しかし、この程度の金額では、被告が移転先を確保する際に若干の助けとなるという程度のものに過ぎないのであつて、右原告の申出を考慮しても前記原告の異議に正当事由ありとするには足りない。

(矢崎秀一)

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